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インプラントにライバル出現!

辛い看取りのあと、「やるだけのことができた」と家族に言わせられる医療。 こうした患者さん、そのご家族、そして医療スタッフへの取材体験をもとに、いま日本でようやく動き出した緩和ケアの最前線を伝えたいと思います。
「治療法がない」と悲嘆にくれてしまう前に、最新科学に基づく緩和ケアの可能性を知っていただくことで難しい再発・進行がんの患者さん、そしてその家族にもう一度がんと向き合う意欲を持っていただきたいのです。 「緩和ケア」という言葉は、どのようなイメージとしてとらえられているでしょうか。
多くの方が、このようにイコールで結びつけてしまい、緩和ケアという言葉の響きに、プラスのイメージを持ちにくいのではないでしょうか。 恥ずかしながら、医療の取材を続けてきた私自身もそうでした。
最先端のがん治療をめざしているがん専門病院に緩和ケア病棟ができる、と聞いたとき、そこはがん治療の最終局面を迎えた方の過ごす、看取りの場なのだ、と思いこんだのです。 マスコミ関係者を対象にした勉強会で、静岡県立がんセンターのY総長がこう語っています「理想の病院をつくりたい、静かに過ごしていただきたいと考えて一般病棟のある建物とは別棟の緩和ケア病棟をつくりました。
しかし、患者さんは望んでその病棟に移りたいとは言わない。 一般病棟に居続けることにこだわるのです」なぜ、がん患者やその家族が緩和ケア病棟を敬遠し、一般病棟にこだわるのか。
容易に想像がつきます。 緩和ケア病棟は、がんの治療を行わず、死を受容するように促されるだけの場所だと思われているからなのです。
私も当初はそのように考えていました。 しかし、この私の考え方は、基本的に間違っていました。

その後、癌研有明病院での一年にわたる取材を通じて、私はがん医療における「緩和ケア」のあり方や、緩和ケア病棟の果たすべき役割が、自分で勝手に思いこんでいたものとは別のものであることを理解しました。 緩和ケアは、こうした終末期に限って行われるべき医療ではなく、がん患者の病気と向き合う日々に、つねに提供され続けなければならない医療なのです。
実際に多くの患者さんやご家族の声を直接うかがい、その日々を共に過ごしたことで、緩和ケアが多くの患者さんに「死の受容」とは正反対の「生きるための力」を与え続けている事実を知ることになりました。 「がんの闘病の早い段階から緩和ケアが提供されるべきである」の考え方は、癌研有明病院のオリジナルではありません。
世界各国のがん医療のあり方についてWHO(世界保健機関)の専門委員会が出した定義のなかで、すでに二○年ほど前(一九八九年)に明らかにされているものでした。 私たちの多くが誤解している緩和ケアと、WHOが示している緩和ケア。
この二つの「緩和ケア」の概念は、とてもシンプルな図を使って示すことができます。 私たちががんと診断されますと、そのがんとつき合い続けるなかで、最初は手術、あるいは抗がん剤やホルモン剤による治療、そして放射線治療が行われます。
いわゆる「がん治療」「抗腫傷治療」「がんの治癒、根治をめざす治療」といわれるものです。 そしてこうした治療にもかかわらず、がんの勢いが止まらず、治療が困難になったとき、終末期医療の段階に入ります。
この終末期医療の時点になって初めて緩和ケアが登場するというのが、これまでの、といいますか、今なお誤解されている概念です。 患者と家族は「治療法がなくなりました。
緩和ケアに移行しましょう」とか、「この病院ではすることがありません。 ホスピスに行かれたらどうでしょうか」などと迫られます。
がん治療と緩和ケアの間の大きな壁。 そのため患者は、がん治療中には苦痛に耐えて治療に専念し、その効果が見られなくなった時点で、今度はがん治療を一切せずに、苦痛をとる緩和ケアを受ける、端的にいえば、治療か、緩和ケアかの、二者択一を迫られることになります。

終末期の緩和ケア対象患者、とレッテルを貼られた場合、どんなに治療を望んでも、「余命が少ないので、あとは心安らかに、好きなことをなさってください」などと告げられることが多いのです。 患者と家族は大きな葛藤を経験することになります。
一方、WHOの考え方では、がん治療と緩和ケアの関係は、「斜め線」で仕切られることになります。 つまり、緩和ケアは、つねにがんの治療と並行し、患者の状態によって、あるときには治療に優先し、あるときにはその逆となって患者に関わるのです。
治療中の苦痛の訴えは、専門家の手によってつねに最大限に配慮され取り除かれるべきというのが、本来の緩和ケアの考え方だというのです。 癌研有明病院の建つ、東京・江東区有明。
臨海副都心といわれるこの地域は、埋め立て地で、つねに強い風にさらされています。 病室や待合室で窓辺にたたずむと、ヒューッ、ゴーッという風の音に包まれ、静寂を感じるときはほとんどありません。
「癌研」は癌研究会に属する病院の通称です。 日本初のがん専門病院として誕生し、七○年近くの歴史があります。
国立の施設ではなく、財団法人、つまり純粋な民間病院です。 病床数七○○。
外来患者は、一日平均一二五○人にのぼります。 もともと東京・豊島区上池袋が本拠地でした。

研究所に併設されていたため、研究と臨床が並行して進められ、長年、日本のがん医療を牽引する立場にありました。 がん医療は、外科手術中心に進化してきた歴史がありますが、癌研には、代々「神の手をもつ」とされる多くの外科医がいました。
手術室には国内各地から医師たちが見学に訪れ、必死でメモをとっていたといいます。 がんが国民病となり、一九六二年、治療と研究を進めるため国立がんセンターが誕生した際には、多くの医師が癌研から送りこまれました。
しかし、その後、がん医療は大きく変貌していきます。 研究が進むにつれ、外科手術一辺倒から、多種多様な抗がん剤を組み合わせた腫傷内科の重要性が増し、さらに放射線治療の可能性も広がってきました。
手狭になり施設が老朽化した癌研は、新しい施設として生まれ変わることになり、二○○五年三月、有明の地に移転したのです。 実際に日本で、この考え方に基づく緩和ケアを実践している医療機関は、まだごく少数に過ぎず、多くの場合、緩和ケアは終末期限定のサービスになっています。
緩和ケアを実践していると評判の医療機関ですら、入院に際して、「看取りの場である覚悟の上で入院してください」と条件がつくのだと、患者さんからうかがいました。 しかし、ようやくこの本で紹介する癌研有明病院をはじめとする施設で、「看取りの場ではない、本来の意味の緩和ケアを実践する医療」をめざすところが登場してきています。
そして、こうした施設からは、いくつかの貴重なデータが発表されつつあります。 遅れること二○年、やっと日本で、緩和ケアを見直す時期にさしかかっています。

新生病院となるにあたって、大きな改革がいくつもありました。 その一つは、臓器別のセンターにして、患者が受診しやすくしたこと。
たとえば、乳腺や子宮など女性のがんについては、レディースセンターとして窓口を一つにしています。

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